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Webサイトリニューアル時にWebディレクターがやるべき12のタスク【中小企業版】

Webサイトリニューアル時にWebディレクターがやるべき12のタスク【中小企業版】

中小企業のWebサイトリニューアル案件は、限られた予算とリソースの中で、「売上向上」「採用強化」といった経営直結のゴールを達成しなければならない、難易度の高いミッションです。

リニューアルの成功は、デザイン、システム、コンテンツ、マーケティングなど、多岐にわたる要素をWebディレクターであるあなたが、いかに整理し、プロジェクト全体を的確にマネジメントできるかにかかっています。

本記事は、中小企業特有の制約必ず存在する経営課題を理解した上で、Webディレクターがリニューアルプロジェクトの立ち上げから公開まで、確実にやるべき12のコアタスクを工程順に徹底解説します。

また、プロとして見落としてはいけない「SEO視点でのチェックポイント」や、中小企業案件で陥りがちな「プロジェクト進行上の落とし穴」も網羅しています。

制作を終えたら終わり」ではなく、「成果を出す」ためのリニューアルを成功させるために、本記事をあなたのタスクリストとしてご活用ください。

目次 - Index -

13135文字

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リニューアルの目的・ゴールとKPI指標の明確化

プロジェクトをスタートさせるにあたり、Webディレクターであるあなたが最初に手を付けるべきは、クライアントの漠然とした要望を、明確なビジネスゴール(KGI)に変換し、具体的な成功指標(KPI)を設定することです。

多くの中小企業クライアントは「なんとなく古くなったから」「競合がやったから」といった手段を目的化したリニューアルを望みがちです。あなたは、ヒアリングを通じて「デザインが古いこと」の裏にある「何を実現できれば、クライアントの経営が前進するか」を深掘りしなければなりません。

具体的な数値目標として、「お問い合わせ数を月間20件に増やす」「採用エントリーの質を高めてミスマッチを半減させる」など、リニューアルの成功が明確に定義できる指標を設定します。

そして、そのゴールを達成できたかを計測するために、適切なKPI(重要業績評価指標)をプロの視点から提案し、クライアントと必ず合意形成を行ってください。

  • KGIの例:Web経由の売上を昨対比150%にする(最終的に達成すべきゴール)
  • KPIの例:資料請求数、電話ボタンのタップ数、特定の商品ページの閲覧数(ゴールに至るまでの中間目標)

SEO視点でのチェックポイント

ゴール達成を加速させるためのディレクションポイント

  • 「指名検索」以外の流入経路の設計
    社名で検索してくるユーザーは既にその会社を知っている人であり、新規顧客ではありません。新規顧客を獲得するために、「地域名+サービス名」や「悩み解決系のキーワード」など、まだクライアントを知らない層が検索するキーワードでの流入目標を設計し、サイト構造に反映させる道筋をつけましょう。
  • コンバージョンに直結するキーワードの選定
    単にアクセスを集めるだけでなく、「見積もり」「価格」「比較」など、具体的な検討段階にあるユーザーが使うキーワードでの上位表示を狙えるよう、コンテンツ戦略の核となるキーワードを選定します。

ディレクターが注意すべき落とし穴

失敗を未然に防ぐためのリスクヘッジ

  • 「あれもこれも」と欲張った目的設定に注意
    「ブランディングも集客も採用も」と、クライアントが複数の課題解決を望むことはよくあります。しかし、すべてを詰め込むとサイトのメッセージが散漫になり、誰にも響きません。プロとして、クライアントの真の経営課題に耳を傾け、「今回は採用が最優先」「まずは特定の事業の売上アップ」などと、優先順位付けをアドバイスし、勇気を持ってターゲットを絞るよう導くのがあなたの重要な仕事です。

現状サイトの課題・状況分析(アクセス解析/SEO状況/ユーザー行動)

医師が診察なしに手術をしないのと同様に、Webディレクターも現状分析なしに制作に着手してはいけません。このフェーズでは、Googleアナリティクスやサーチコンソールなどの専門ツールを駆使し、クライアントの既存サイトの強みと弱みを徹底的に洗い出します。

感覚や主観ではなく、客観的なデータに基づいて現状を把握し、プロジェクトの改善の根拠を確立することがあなたのミッションです。

  • アクセス解析
    どのページが成果に貢献し、どのページでユーザーが離脱しているのか、数字でボトルネックを特定します。
  • SEO状況
    現在、Googleから評価されている資産(ページ)はどれか、逆にサイト全体の評価を引っ張っている負債(ページ)はどれかを詳細に調査します。
  • ユーザー行動
    スマートフォンでの閲覧比率や、お問い合わせに至るまでの典型的な行動パターンを分析し、ユーザー体験の課題点を浮き彫りにします。

これらのデータに基づき、「御社のサイトのここが強みです」「ここがボトルネックになっています」と、客観的な事実に基づいた改善プランをクライアントに提示・説明する責任がWebディレクターにはあります。

SEO視点でのチェックポイント

リニューアル時に「評価を失わない」ための保護タスク

  • 被リンク(外部からのリンク)の確認
    他サイトからリンクされているページは、SEOにおいて非常に価値の高いデジタル資産です。リニューアル時にうっかりURLを変えて評価を失わないよう、保護すべきページを必ずリストアップし、URL変更が必要な場合は適切なリダイレクト設計を準備してください。
  • 「ゾンビページ」の整理
    数年間アクセスが全くないページや、内容が薄いページは、サイト全体の品質を下げ、クロールの効率を悪化させます。リニューアルを機に、これらのページを削除するか、内容の近いページへ統合、またはnoindexにするかなどをディレクターが判断し、実行に移します。

ディレクターが注意すべき落とし穴

データ分析をないがしろにしないための心構え

  • 「感覚だけのリニューアル」をしない
    CV獲得を目指すプロジェクトにおいて、「社長が今のデザインを気に入っていないから」という主観的な理由だけで大きく変更するのは非常に危険です。データを見ると、実はそのデザインがお問い合わせに貢献しているというケースは少なくありません。主観や好みではなく、必ず「データに基づいた根拠」を持って、残すべき要素と変えるべき要素をWebディレクターが判断し、クライアントに納得していただけるよう説明してください。

ターゲットとペルソナ/ユーザーニーズの再定義

「誰に」情報を届けるか、この設計がズレていると、いかに美しいデザインや高度なシステムも成果には結びつきません。

Webディレクターは、第三者のプロフェッショナルとして、クライアントに対し「御社のサービスを本当に必要としているのは誰か?」という本質的な問いを投げかけ、再定義をリードする必要があります。

特に中小企業クライアントでは「全世代がターゲット」と言われることもありますが、限られたリソースで勝つためにはターゲットの絞り込みが必須です。

あなたは、以下の要素を含む、具体的でリアリティのあるペルソナ(架空の典型的ユーザー像)を作成し、クライアントと共有しなければなりません。

  • 抱えている課題は何か?
  • 解決策をどのように探しているか?
  • 最終的に何が決め手で契約・購入に至るか?(心理背景の深掘り)

SEO視点でのチェックポイント

ペルソナの悩みを具体的なサイト設計に落とし込む作業

  • 検索意図(インテント)への翻訳
    ヒアリングで見えてきたユーザーの悩みや行動を、具体的な「検索キーワード」に変換します。「知りたい(Know)」「行きたい(Go)」「やりたい(Do)」「買いたい(Buy)」という4つの検索意図(インテント)に対し、Webサイト上でどのような答え(コンテンツ)を用意すべきか、プロの知見でコンテンツ構成案に落とし込むのがWebディレクターの役割です。

ディレクターが注意すべき落とし穴

クライアントの思い込みを修正し、成果へ導くための心構え

  • 「お客様の思い込み」を鵜呑みにしない
    クライアント企業が抱いている「顧客はこう動くはずだ」という願望と、実際のユーザー行動や検索行動にはズレがあることが多々あります。クライアントの言葉をそのまま信じるのではなく、参考にしたうえで、「競合と比較しているユーザーは、御社のここを不安に思うはずです」「この情報はユーザーには不要です」といった、耳の痛い指摘も含めたリアリティのある提案ができるかどうかが、ディレクターとしてのあなたの腕の見せ所です。客観的なデータや市場の視点を持ち込み、クライアントを正しい方向に導きましょう。

競合分析・ベンチマーク・差別化ポイント整理

このタスクの目的は、単にライバルのサイトを眺めることではありません。競合他社のWebサイトを徹底的に分析し、市場におけるクライアントの「勝ち筋」を見つけ出し、Web戦略の方向性を確立することです。

以下の項目を通じてクライアントの市場ポジションを明確化します。

  • 競合サイトの構成分析
    ライバルがどんなコンテンツで訴求し、どんなキャッチコピーを使っているか、その裏にある戦略を読み解きましょう。
  • デザイン・UIの比較
    ユーザーにとっての使いやすさや信頼感で負けていないか、特にスマートフォン対応状況を含め、ユーザー体験の優位性を確認します。
  • SEO競合の調査
    クライアントが狙うキーワードで上位表示されているサイトを分析し、「なぜ上位にいるのか」を解明し、クライアントのコンテンツが勝つための要件を抽出します。

重要なのは、競合の表面的な真似をすることではありません。競合が訴求できていない「市場の隙間」や、クライアントだけが提供できる「独自の強み(ユニークセリングポイント)」を見つけ出し、リニューアルサイトのメインメッセージとして掲げることがあなたの責務です。

SEO視点でのチェックポイント

競合の強さに応じた「勝てる戦略」を設計するタスク

  • ドメインパワーの調査
    専用ツールを使い、競合サイトのWeb上での信頼度や強さを数値化(ドメインパワー)します。競合が強大すぎる場合、真正面から戦っても勝つことはできません。その際は、少し視点をずらした「ニッチなキーワード」で確実に上位を狙う戦略などを提案し、無理のない範囲で成果を出す道筋をクライアントに示してください。

ディレクターが注意すべき落とし穴

デザインや機能の表面的な模倣を避けるための指導タスク

  • 「見た目の比較」だけで終わらせない
    クライアントから「A社のサイトがカッコいいから同じようにしたい」という要望があったとしても、安易にイエスと言ってはいけません。A社とクライアントでは、ターゲット、予算、強みがすべて異なります。デザインの表面的な模倣ではなく、その裏にある戦略を読み解き、クライアントに最適な戦い方を提案し、納得させることが、ディレクターとして必要です。

システム・機能要件と仕様定義(CMS・API・レスポンシブ等)

このフェーズは、リニューアルサイトの持続的な運用と将来の拡張性を決定する、技術的な設計図を描く工程です。プロジェクトの成否を左右する土台固めであり、Webディレクターの技術的知見とクライアントの運用体制への深い理解が試されます。

中小企業のWebサイトにおいて、クライアントが自分たちで簡単にお知らせやブログを更新できる仕組み(CMS)は必須要件です。Webディレクターは、クライアントの社内リソースとITリテラシーを正確に把握し、最適なシステムを選定する判断力が求められます。多くの場合、世界シェアNo.1のWordPressを最もリスクが低い選択肢として提案することになるでしょう。

また、お問い合わせフォーム、予約システム、顧客管理ツール(SFA/CRM)との連携など、ビジネスに必要な機能をすべて洗い出し、開発チームが迷わないよう技術的な仕様書に落とし込むのも重要な責務です。

SEO視点でのチェックポイント

技術的な要素をSEOに結びつけるディレクション

  • 表示速度を考慮した軽量設計
    多機能すぎるシステムや、動きの多すぎるアニメーションはサイトを重くし、Googleが重視するCore Web Vitals(コアウェブバイタル)のスコアを下げます。機能と速度のトレードオフを理解し、サクサク動く軽量な設計を開発チームに指示しなければなりません。
  • 構造化データの実装
    検索エンジンに、会社名、住所、商品情報、FAQなどのコンテンツを正しく理解してもらうための特殊なコード(構造化データ)を記述できる仕様を初期段階で組み込むとさらに良いでしょう。

ディレクターが注意すべき落とし穴

クライアントと開発チームを守るためのリスクマネジメント

  • 「オーバースペック」によるコスト増を防ぐ
    クライアントが「将来使うかもしれないから」と高機能なシステムやオプション機能を希望しても、安易に受け入れてはいけません。オーバースペックな機能は、制作費も保守費も不必要に跳ね上がらせ、結局使われずに終わるリスクが高いからです。まずは「現場が使いこなせるミニマムな範囲」でのスタートを提案し、会社の成長や運用実績に合わせて機能を拡張していく段階的なプランを推奨するのが、クライアントに寄り添ったディレクションです。

サイト構成(IA:情報設計)・導線設計・URL構造設計

このフェーズは、プロジェクトの骨格となる具体的な設計図(情報アーキテクチャ/IA)を描く重要な工程です。Webディレクターは、単にサイトマップを作るだけでなく、「ユーザーが迷わず、目標(CV)に最短で到達できる」ような緻密な導線設計を行う責務があります。

  • サイトマップ作成と配置
    設定したペルソナ(タスク3)と競合分析(タスク4)の結果に基づき、どのページをどこに配置するかを整理します。最優先事項は「ユーザーがストレスなく情報を得られること」です。
  • 導線設計
    トップページから目的のページまでスムーズにたどり着けるよう、グローバルナビゲーション、サイドメニュー、CTA(コールトゥアクション)ボタンの配置を緻密に計算し、設計意図を明確にします。
  • URL構造設計
    URL(アドレス)のルールも、将来的にコンテンツが増えても管理しやすいシンプルで階層的な構造に設計し、SEO上の配慮も行います。

SEO視点でのチェックポイント

サイトの骨格に「検索エンジンへの配慮」を組み込むディレクション

  • ディレクトリ構造の最適化
    SEO上、特に重要なページ(主力サービスや主要なカテゴリページなど)は、トップページから少ないクリック数(理想は3クリック以内)で到達できるように配置します。これにより、検索エンジンのロボットがそのページの重要性を認識しやすくなります。
  • トピッククラスターモデルの導入
    関連性の高いページ同士を内部リンクで強固に繋ぎ、サイト全体の専門性(権威性)を高める構造を意図的に作ります。これは、SEOにおける評価軸の一つであり、ディレクターの知見が試される部分です。

ディレクターが注意すべき落とし穴

クライアントの視点を矯正し、ユーザー視点を徹底させる指導タスク

  • 「社内用語」や「組織図」を持ち込まない
    よくある失敗が、クライアントの部署名をそのままメニュー名にしてしまうことです。ユーザーはクライアントの組織図にはそれほど興味がありません。クライアントの要望をそのまま聞くのではなく、「お客様がどういう言葉で情報を探すか」という視点で情報を再整理し、「製品一覧」ではなく「課題から探す」といった、ユーザー視点のメニュー名やカテゴリ設計を提案し、可能な限りその方針を貫く必要があります。

コンテンツ企画・ライティング/キーワード設計・SEO設計

Webサイトの成果は、デザインではなく、掲載する「中身(コンテンツ)」で決まります。箱(デザイン)が良くても中身が空っぽではユーザーは動きません。

このタスクでは、Webディレクターがユーザーの検索意図と心理変容を深く理解し、成果に直結するコンテンツを企画・設計する編集長の役割を果たします。

各ページにどのような文章、写真、図解を載せるか、詳細な構成案(ワイヤーフレーム)をあなた自身が主導して作成します。情報の優先順位を明確にし、ユーザーの心理変化に合わせたストーリーを組み立て、最終的なゴール(CV)へ導く流れを設計してください。

SEO視点でのチェックポイント

コンテンツの魅力を最大限に高めるディレクション

  • タイトルタグ・メタディスクリプションの最適化
    検索結果に表示されるタイトルと説明文は、サイトへのクリック率(CTR)を左右するWebサイトの看板です。ターゲットキーワードを効果的に配置し、ユーザーが思わずクリックしたくなるコピーを設計・指示する責任があなたにはあります。
  • E-E-A-T(経験・専門性・権威性・信頼性)の強化
    Googleが特に重視する評価基準を満たすため、単なる事実の羅列ではなく、監修者の明記、具体的な事例紹介、お客様の声、信頼できるスタッフ紹介などの要素をコンテンツに組み込むよう、企画段階から設計し、クライアントに協力を求めます。

ディレクターが注意すべき落とし穴

コンテンツ作成の停滞を防ぎ、プロジェクトを推進する指導タスク

  • 「原稿はお客様任せ」にしない
    中小企業のリニューアルで最もプロジェクトが停滞し、納期遅延の原因となるのが「原稿作成」です。お忙しい担当者様に「白紙から書いてください」と依頼するのは、ディレクターの責任放棄に等しい行為です。Webディレクターが、詳細なヒアリングシートを用意したり、インタビューを実施してライターが原稿化したりと、クライアントの負担を最小限にするサポート体制を整え、原稿作成を積極的にリードしなければなりません。

デザイン・UI/UX制作・コーディング指示

タスク6と7で描いた設計図に基づき、デザイナーがビジュアルを作成し、エンジニアが動くサイトへと組み上げるフェーズです。Webディレクターは、「見た目の美しさ」だけでなく、「使いやすさ(UI/UX)」と「技術的な品質」を厳しく管理する品質保証責任者の役割も求められます。

中小企業のサイトでは、奇抜さよりも、ユーザーに安心感を与える「信頼感」「親しみやすさ」「分かりやすさ」が何よりも重要です。企業のブランドイメージを守りつつ、設計した導線(IA)に基づき、コンバージョン(成果)に繋がるデザインとなっているかをチェックし、デザイナーとエンジニアへの的確な指示出しを行ってください。

SEO視点でのチェックポイント

成果に直結する技術的な品質管理ディレクション

  • モバイルファーストインデックス(MFI)への完全対応
    現在はPCよりもスマートフォンの評価が優先されるため、Webディレクターはスマホ対応が最優先であることを徹底させなければなりません。PCのデザイン確認だけでなく、スマホでの文字サイズ、ボタンの押しやすさ、画像読み込み速度などを、ユーザー視点で徹底的にチェックします。
  • 正しいHTML構造(セマンティックコーディング)
    見出しタグ(h1〜h6 )の順番、画像の説明文(alt属性)、リストタグの使用など、検索エンジンが内容を正しく理解できる「正しい文法」でコードが書かれているかを確認し、エンジニアに対し品質基準を厳守するよう指示します。

ディレクターが注意すべき落とし穴

主観を排除し、論理的なデザイン進行を徹底する指導タスク

  • 「個人の好み」によるブレを防ぐ
    デザイン提出時に「やっぱりこの色は好きじゃない」「前の会社のサイトのほうが良かった」といった主観的な修正要望が入ると、プロジェクトの軸がブレ、手戻りが発生します。Webディレクターはこれを厳しく防ぐ必要があります。デザイン着手前に、参考サイトなどを用いてトーン&マナーの合意形成を徹底し、デザイン提出時は「なぜこの配色・レイアウトなのか」を論理的根拠(ターゲット、KPI、競合)に基づいて説明することで、手戻りを未然に防ぎ、プロジェクトを予定通り進行させることが重要です。

スケジュール・進行管理・体制構築(ステークホルダー調整含む)

多くの複雑なタスクを設定された期限内に完了させるための進行管理こそ、Webディレクターの最も重要な要件です。

プロジェクト全体のペースメーカーとして機能し、「誰が、いつまでに、何をやるか」を明確にしたスケジュール表(WBS)を作成・共有し、全体を管理します。

予期せぬトラブルやクライアントの遅延を見越したバッファ(余裕期間)の確保や、制作スタッフ、外部パートナー、そしてクライアントご自身へのリマインドと進捗確認を欠かさず行うことで、プロジェクトを常にアクティブな状態に保つ責任があります。

SEO視点でのチェックポイント

公開後の成果を見据えた計画策定ディレクション

  • コンテンツ制作期間の先行確保
    SEOに強く、品質の高い記事やコンテンツを短期間で作ることはとても困難です。公開直前に慌てて制作することがないよう、プロジェクトの初期段階からコンテンツ制作をデザイン・コーディングと並行して走らせるよう計画を立て、クライアントのリソース確保を随時確認しておく必要があります。

ディレクターが注意すべき落とし穴

プロジェクト遅延の最大の原因を排除するコミュニケーションタスク

  • 「ボールの所在」を曖昧にしない
    プロジェクトの遅延原因の多くは、「誰かがやっているだろう」「返信待ちだが急がないだろう」といった思い込みや曖昧なコミュニケーションから生じます。「現在、御社の確認待ちです」「このタスクの期日は来週の火曜日です」と、常にボールの所在と次のアクションを明確にし、クライアントを迷わせない円滑なコミュニケーションを意識してください。曖昧な指示は、すべてディレクターの責任としてプロジェクトに跳ね返ってきます。

テスト・QA/公開前チェック(SEO設定・リダイレクト設計・リンク・動作・速度)

制作が完了しても、あなたの仕事は終わりではありません。このフェーズは、Webディレクターが最後の砦として、クライアントのビジネスに直結する致命的なミスがないかを検証し、品質保証(QA)を徹底するタスクです。

テスト環境を使い、本番さながらの厳しいチェックを実施します。

  • 動作検証
    様々なスマートフォン機種やブラウザでの表示崩れがないか、お問い合わせフォームなどの重要機能が正しく動作するか。
  • リンクチェック
    リンク切れや誤った遷移がないか、数百項目に及ぶチェックリストを用いて品質を保証します。
  • 速度チェック
    Core Web Vitalsなど、設計段階で定めた速度要件を満たしているかを最終確認します。

SEO視点でのチェックポイント

公開と同時にSEO評価を確立・維持するための重要ディレクション

  • noindexタグの解除確認
    制作中は検索エンジンに読み込まれないように設定している「検索避け(noindex)」を、公開時に外し忘れると、サイトが検索結果に全く出てこないという致命的な事態を招きます。これは絶対に防がなければならないミスとして、Webディレクターとエンジニアによるダブルチェック必須な確認項目です。
  • リダイレクト設計の動作検証
    リニューアルに伴いURLが変更されたページについては、旧URLから新URLへ正しくリダイレクト(301リダイレクト)されているかを一つ残らずテストします。これにより、既存のSEO評価や被リンクの価値を失うことを防ぎます。
  • XMLサイトマップの確認
    検索エンジン向けのサイトマップが正しく生成・更新されているか、またGoogle Search Consoleへの登録準備ができているかを最終確認します。

ディレクターが注意すべき落とし穴

環境の違いによるバグを見逃さないための連携タスク

  • 「テスト環境と本番の違い」を見逃さない
    テスト環境では問題なく表示されていた画像やフォームの動作が、本番環境に移行した途端に動かなくなるというトラブルは非常に頻繁に起こります。これは、多くの場合、ファイルパスの記述やサーバー設定など、環境に依存する要素によるものです。Webディレクターは、エンジニアと連携して、環境設定ファイルやパスの記述など、細部まで本番環境での動作確認を最優先で行うよう指示しなければなりません。

公開・移行実施(旧サイト→新サイトの移行リスク管理・URLリダイレクト・検索順位維持)

いよいよ新サイトの本番公開(カットオーバーまたはローンチ)です。このフェーズは、Webディレクターにとって最も緊張感が高まる瞬間であり、これまでの全ての努力の成否と、既存のSEO資産を守り抜く高度な専門知識が求められます。

Webディレクターの役割は、旧サイトから新サイトへの移行リスクを徹底管理し、アクセスやSEO評価を一切失うことなくシームレスに切り替えを完了させることです。サーバーの切り替え、DNSの変更などを正確に指示・監督し、世界中から新しいサイトが見られる状態を確立してください。

特に、リニューアルに伴いURLが変わる場合は、旧サイトの資産を確実に継承するための301リダイレクト設定が最重要ミッションとなります。

SEO視点でのチェックポイント

資産を守り、早期の評価獲得を促すディレクション

  • 301リダイレクトの徹底と動作検証
    旧サイトの各ページが持っていたSEOの評価(Googleからの信頼)を、新サイトの対応ページへ漏れなく引き継ぐ設定です。これを失敗すると、これまで検索上位にあったページが圏外に飛び、アクセスが激減してしまいます。事前に作成した全ページの対照表に基づき、転送設定の記述と動作を一つ残らずテストし、最終チェックリストの最上位に位置づけてください。
  • Google Search Consoleでの再送信
    公開後すぐにGoogleへ「サイトが新しくなりました」と通知するため、Google Search ConsoleからXMLサイトマップを再送信し、新サイトへの早期の巡回(クロール)とインデックス登録を促します。

ディレクターが注意すべき落とし穴

不可逆的なミスを防ぐための危機管理タスク

  • 「サーバー設定ミス」による閲覧不可リスク
    転送設定やサーバーの切り替え時の記述ミスは、サイト全体を一時的に閲覧不能にするリスクを伴います。事前に検証環境で動作テストを徹底するのはもちろん、万が一トラブルが起きた場合でもすぐに旧サイトへ切り戻せる(ロールバック)バックアップ体制を万全に整えてから作業に臨む必要があります。公開作業中も、冷静な判断と迅速な対応ができるよう、関係者全員の待機体制を確保しておきましょう。

運用サポート体制への引継ぎ・ナレッジ共有(更新フロー・ガバナンス/運用マニュアル)

公開はゴールではなく、クライアントのビジネスのスタートです。Webサイトは公開してから育てていかなければいけません。

Webディレクターは、構築後のサイトが成果を生み出し続けるために、情報を共有し、持続可能な運用体制を構築する最後のミッションを担います。

構築を担当したWebディレクターが次のプロジェクトへ移る前に、社内の「構築チーム」から「運用サポートチーム」へ、できる限り詳細を伝えて引継ぎを行うことが重要です。引継ぎの遅延や不備が原因で、クライアントに「事情を知らない担当者へのストレス」を与えないよう、プロジェクトの全容を明確に共有してください。

  • 仕様と経緯の共有
    「なぜこのデザインになったのか」「なぜこの機能を実装したのか」という戦略的な背景や、クライアント独自の業務フロー、CMSのカスタマイズ箇所などを詳細なドキュメント(運用マニュアル、設計書など)に残し、運用担当者に引き継ぎます。
  • リスクと注意点の伝達
    「この設定を変えると表示が崩れる」「サーバーの仕様上、ここは特に注意が必要」といった、制作段階で判明した技術的な地雷や運用上のリスクを共有し、事故を未然に防ぐ体制を整えます。

SEO視点でのチェックポイント

SEO戦略の持続と改善提案を可能にするディレクション

  • 観測体制の引継ぎと行動指示
    リニューアル時に策定したSEO戦略と設定した重要キーワードの順位変動、アクセス解析の定点観測の視点を運用チームに依頼します。これにより、単なる「保守(守り)」ではなく、運用チームが順位を上げるための「改善提案(攻め)」も行える体制的な土台を構築します。

ディレクターが注意すべき落とし穴

知識の透明性を確保し、サービスの質を維持する指導タスク

  • 「属人化によるブラックボックス化」を防ぐ
    プロジェクトの詳細はWebディレクターの頭の中にしかなく、ドキュメント化されていない状態は最悪です。「あの件はディレクターの〇〇さんじゃないと分からない」という属人性の高い状態は、クライアントへのサービス品質低下に直結します。誰でも運用できる透明性の高い情報を目指し、徹底したナレッジ共有を行い、組織全体でお客様をサポートする体制を構築しなければなりません。

まとめ:Webディレクターは、制作進行役ではなく「事業成長の翻訳者」であれ

ここまで、中小企業のWebサイトリニューアルにおいてWebディレクターであるあなたが担うべき12のコアタスクを解説してきました。

この全工程を通じて改めて認識すべきなのは、あなたの仕事が単なる「スケジュールの管理役」や「伝書鳩」ではないということです。

特に、専任のマーケティング担当やIT部門を持たないことが多い中小企業において、Webディレクターは、実質的な「CMO(最高マーケティング責任者)」や「CTO(最高技術責任者)」の代行に近い、極めて戦略的な役割を担っています。

クライアントの「売上を伸ばしたい」「採用を成功させたい」という切実だが抽象的なビジネス言語を、「SEO設計」「UI/UX」「システム要件」といった具体的なエンジニアリング言語に正確に翻訳し、設計図を描くこと。そして、制作チームが最高のパフォーマンスを出せるよう環境を整え、最終的なビジネスの成果にコミットすること。

これこそが、プロフェッショナルのWebディレクターに求められる真の価値です。

「言われた通りのサイトを作る」だけの御用聞きから脱却し、クライアントのビジネスを深く理解し、時には耳の痛い指摘も行いながら事業成長をリードする。そんな「頼れる戦略的パートナー」として、一つひとつのプロジェクトに高いプロ意識を持って向き合っていきましょう。

本記事が、日々のディレクション業務の揺るぎない指針となり、あなたのプロジェクト進行の質を一段階引き上げる一助となれば幸いです。

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